公開日
更新日
アイネスでは、政府が推進する「ガバメントクラウド」への業務システムの早期移行を自治体様に向けて実現しています。
本記事では、当社がガバメントクラウドの移行を担当した東京都昭島市様と岡山県倉敷市様に焦点を当て、移行の背景や開発時のエピソード、AWSを選択した理由や開発時に特に注意した点などについて、アイネス ソリューション本部 拠点統括部 課長 鎌仲正大へのインタビュー形式で振り返ります。
目次
2.東京都昭島市様と岡山県倉敷市様でのガバメントクラウド移行作業について
4.岡山県倉敷市様と東京都昭島市様の案件で、異なる点や苦労した点
アイネス ソリューション本部 拠点統括部 課長 鎌仲正大
鎌仲:当社では自治体向け基幹業務システム「WebRings」を提供しており、ガバメントクラウドへの移行については、当社からさまざまな団体様へ「移行作業を担当させてもらえないか」ということを打診させていただきました。
当社にはこれまでAWSの実績がなかったこともあり、安心・安全なシステムを提供できることをお客様にアピールするためにも、ガバメントクラウド事業にできるだけ早い段階で参入していこうという方針です。
鎌仲:今回、当社は東京都昭島市様と岡山県倉敷市様でそれぞれガバメントクラウドへの移行作業を担当しています。もともとは両団体とも、オフィス内にサーバーを持つオンプレミスタイプで「WebRings」を提供していました。
今回、ハードウェアの保守期限が切れる関係で、ハードウェアのリプレースを行うことになり、具体的な検討の段階で、政府からガバメントクラウドの施策が出てきました。「2025年度末には全自治体のシステムがガバメントクラウドに移行する」という政府の方針に沿って、弊社でもガバメントクラウドへの移行を積極的に進めていく方向性に舵を切りました。
背景には、岡山県倉敷市様は2023年1月に全ての業務システムが、東京都昭島市様は2023年の9月に福祉系システム、2024年3月に住基システムの保守が切れるという事情もありました。オンプレミスを継続しても、少なくとも2025年度末の標準化完了後に機器を廃棄する必要があるため、将来的なコスト面も考慮してガバメントクラウドへの早期移行を選択しました。
鎌仲:東京都昭島市様のガバメントクラウドへの移行作業では、保健福祉総合システムと介護保険システムの運用を先に開始して、その他のシステムを後からリリースする2段階の移行を行っています。
保健福祉総合システムと介護保険システムは先行してシステムを提供しており、後から住基や税システムを契約して運用していたため、それぞれの保守期限にばらつきがあるということで、個別にスケジュールを組んで進める形になりました。
また、保健福祉総合システムと介護保険システムは似たような仕組みで作られているのですが、住基システムはかなり異なる仕組みを持っているので、動作検証を細かく行う必要があったという事情もあります。まとまった時間を確保するために、時期をずらして2段階のスケジュールでリリースしています。
鎌仲:最初に開発を始めたのは岡山県倉敷市様で、開発から移行までの期間としては10ヶ月程度かかっています。当初は15ヶ月程度を予定していたのですが、 デジタル庁側で準備が遅れたためにガバメントクラウドの先行事業のスタートが遅くなったこともあり、10ヶ月程度で完了する状況になりました。
その前から技術調査は進めておりましたので、 技術調査のリードタイムとしては半年ぐらいかけて行っております。東京都昭島市様に関しては、保険福祉総合システムが6、7ヶ月程度、住税系のシステムは8ヶ月程度のスケジュールで実施しました。
鎌仲:異なるというところでいうと、移行を担当した範囲の部分が大きいです。東京都昭島市様では、保健福祉総合システム、介護保険システムなど複数のシステムを総合的に提供していますが、岡山県倉敷市様では、当社がもともと提供しているのが保健福祉総合システムのみなので、該当部分のみガバメントクラウドとして提供しています。
先行事業として、高松市、松山市、倉敷市の三団体合同で他社の住基システムを移行するというプロジェクトがあり、 そこに付随して当社が保健福祉総合システムを担当するといった枠組みだったので、他社ベンダーとの調整が必要だったという部分でも少し違いがあります。
鎌仲:いくつかあるのですが、岡山県倉敷市様に関しては、AWSのサービスをできるだけ多く使う構成にしたことが大きいと感じています。今後、各自治体においてガバメントクラウド上で標準準拠システムを稼働させることを見据えて、標準化後のシステムとできる限り同じシステム構成での運用を目指しました。
自動的にサーバー台数が増えていく、 サーバーレスのデータベースを使うなど、 クラウド特有の取り組みをいろいろと試しています。
東京都昭島市様については、開発期間が短かったことと、介護保険システムについては稼働実績がなかったこともあり、IaaSでまるごとガバメントクラウドへ移行しています。そのため、サーバーの中にデータベースインスタンスを立てる形を取るなど、オンプレミスに近い形で移行できたので、開発期間を短縮できたという経緯があります。
鎌仲:岡山県倉敷市様では、AWSでシステムを動かすということ自体が未経験だったことと、デジタル庁としても先行事業としての十分な準備ができていない段階からスタートしたので、 予定していた時期になってもなかなか事業がスタートできなかったことが特に大変でした。
もともとは2021年7月に政府のガバメントクラウド先行事業にシステム提供事業者として申請し、2021年8月から事業をスタートする予定だったのですが、実際に事業をスタートできたのは年が明けた2022年2月からだったので、2021年末の移行期限に作業を完了させることが一番苦労しました。
事前にリサーチは行っていたのですが、旧システムのOSやデータベースのバージョンも全て異なるものに切り替わった関係で、実際に設定して動かしてみるとうまくいかないこともありました。
岡山県倉敷市様では、性能劣化を解消するために、 稼働直前に一部プログラムの改修を行っています。
東京都昭島市様では、実装したサーバーのスペックと比較して、想定していたよりも処理速度が遅くなってしまうという課題もありました。結果的には当初の予定よりもサーバーのスペックを上げる選択をするなど、オンプレミスとは仕様が異なる部分も実感しながら、必要な性能を確保するために試行錯誤した記憶があります。
鎌仲:現時点では順調に稼働しており、大きなトラブルはないのですが、システムの標準化に伴う運用体制についてはいろいろと調整している最中です。
今回、ガバメントクラウド上で標準化される業務が全部で20業務あるのですが、現行ではこの20業務について全てのお客様に対して同じシステムを提供しているわけではなく、お客様ごとに機能面や帳票レイアウトの小規模なカスタマイズを行っているケースが大半です。
今後は標準化対象業務については提供する機能が統一されるので、拠点ごとに保守体制を維持する必要がなくなります。全国統一した保守ができるようになるので、現在は将来的な運用体制に向けた調整をしているところです。
当社としては、市区町村や都道府県の主管事業についてもきめ細かく提供できるという強みも持っています。主管事業については今のところシステムを統合できる見通しは立っていないので、そちらも含めた統合的なシステムとして提供できる運用体制や保守体制の構築を進めています。
鎌仲:東京都昭島市様では、ガバメントクラウドへの移行後も、旧システムと比較して運用はそれほど変わっていないのですが、今回は変える必要がないという判断から従来の運用を再現する形で移行しています。
本来であれば、クラウドに移行した際にはコストの削減や稼働時間の短縮のために、過度にストレージを確保せず、必要に応じて使用量を増やしていくような(オンプレミスとは異なる)運用設計を行います。しかし、今回はガバメントクラウドが標準化した後に改めて運用設計を行うものとして、旧システムを一旦そのまま使う形で移行しています。
今年度まではデジタル庁の助成の範囲内で運用できるので、自治体様側に負担はかからないだろうという思いもあり、このような形を取ることになりました。
今後は政府側でもガバメントクラウドの標準化に向けて法改正が進められ、助成もなくなっていくので、状況を見ながら少しずつ運用をスリム化していく予定です。
鎌仲:最初にガバメントクラウド上で利用可能なパブリッククラウドサービスとして認定されたのは、AWSとGCPの2種類でした。両サービスを比較すると、GCPはドキュメントが非常に少なく、使い始めるのが難しい印象がありました。一方、AWSはドキュメントが豊富で日本国内での実績も十分にあったことから、AWSを選択しました。
コスト面に関しては、当社のシステムを構築する限りでは大きな違いが見出せなかったので、安定した環境を構築できそうな点や、CDKテンプレートで細かいところまで作りこめること、プログラムとパラメータを分離することで、多数の団体への横展開が容易にできるテンプレートが開発できそうなことから、AWSを選定しています。
今後、横展開を考えた際にスクリプトの書き換えが頻繁に発生してしまうと、書き換えに対応できるエンジニアを育成する時間とコストがかかって品質低下を招く懸念がありました。その懸念を避けられるプラットフォームとしては、開発を始めた当時はAWSが適切だったということもあります。
鎌仲:岡山県倉敷市様の先行事業で構成を作ったときには、AWSのオフィスにお伺いして対面で構成レビューをしてもらえるなど、ベンダー向けのサービスはとても充実していたなと感じています。メールで問い合わせてもスピーディーな回答や新たな提案をいただけた点も良かったです。
注意点に関しては、クラウドの特性でネットワークの設計が少し難しいということと、IPアドレスの割り振りがオンプレミスのときよりも何倍か大きな領域が必要になることかなと思っています。
AWSのサービスを利用して外部と通信する機能については、ネットワークの設計段階で、広大な領域を割り当ててもらわなければならないという部分には特に注意していました。
割り振りを間違ってしまうと、環境構築の段階からやり直しになってしまうので、そこだけは絶対に失敗できないなというのは強く感じています。
鎌仲:現在、横展開を進めている最中で、拡大路線に乗せるために準備を急いでいます。また、標準化に伴う標準機能のリリースも間近なので、リリースを滞りなく行い、お客様環境への提供を開始していくというところをしっかりやっていきたいと思っています。
標準化に向けては、データ移行や変更になった機能の検証があるのですが、省力化を図るためのツールや自動化スクリプトの開発を進めています。より効率的かつ高品質なシステムを多くの団体様に提供できるように工夫していきたいと考えています。
既存のお客様へのシステム切り替えが終わりましたら、できるだけ早期に、移行困難団体として移行先が見つからずに困っている自治体様に向けた支援を開始したいという展望もあります。
<導入事例>
【岡山県倉敷市様】せとうち3市で「ガバメントクラウド先行事業」に応募 稼働から1年が経過し安定稼働中
【東京都昭島市様】ガバメントクラウド早期移行団体検証事業で、自治体情報システム標準化の対象となる20業務のうち18業務をリフト
【お問い合せ先】
今回、ご紹介しましたアイネスの「Makaset For AWS Cloud」についての紹介は、以下のURL(アイネスコーポレートサイト)よりご覧いただけます。
弊社は、情報サービスのプロフェッショナルとして、システムの企画・コンサルティングから開発、稼働後の運用・保守、評価までの一貫したサービスと公共、金融、産業分野などお客様のビジネスを支える専門性の高いソリューションをご提供しています。お気軽にご相談ください。