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SAPとその他のERPの違いは?選び方や導入時の注意点などを解説

SAPとその他のERPの違いは?選び方や導入時の注意点などを解説

SAPは、世界中で高いシェアを誇る代表的なERPの1つです。その他のERPとは、機能性やグローバルな対応力などに違いがあります。

一方、SAP以外のERPにも特徴的なものが数多く存在するため、「SAPとその他のERPの違いを理解したい」「SAPとその他のERPのどちらを選ぶべきかヒントがほしい」といった方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、SAPとその他のERPの違いについて解説します。選び方や導入時の注意点にも触れるので、ぜひ参考にしてください。

SAPとERPの違い

ここでは、ERPとは何かを整理したうえで、SAPがどのような位置づけにあるのか、また他のERPとどこが違うのかを明確にしましょう。

ERPとは

ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)は、企業のあらゆる経営資源を一元管理するための統合型業務システムを指します。営業・会計・生産・人事などの基幹業務を部門ごとに個別のシステムで管理していた時代から、これらを一つのプラットフォームに統合することで、情報の一貫性を保ち、業務の効率化を実現するというのがERPの基本的な考え方です。

現在では、クラウド型ERPや業種特化型ERPなど、多様な製品が提供されており、企業規模や業務特性に応じた柔軟な選択ができます。

SAPとは

SAP(エスエーピー)とは、ドイツのソフトウェア会社「SAP」が提供するERP製品群を指すブランド名です。SAPはERPの先駆け的存在であり、世界で最も導入実績の多いERPベンダーの1つとして知られています。

「SAP=ERP」という誤解も一部にありますが、正確には「SAPはERPの中の一製品ブランド」に位置づけられます。SAPが提供するERPは、販売管理・購買・会計・人事・生産・在庫管理など、あらゆる業務領域に対応しており、しかもそれぞれのモジュールが密接に連携するのが特徴です。

さらに多言語・多通貨・各国法令対応にも強く、グローバル企業にとっては非常に魅力的な選択肢となるでしょう。

SAPと他のERPパッケージとの違い

ERP市場には、SAP以外にも多くの製品が存在します。たとえば、国内では「OBIC7」「GRANDIT」、海外では「Oracle Fusion Cloud ERP」「Microsoft Dynamics365」などが代表的です。その中で、SAPの大きな特徴は以下の3点です。

・機能の幅広さと柔軟性
・リアルタイムなデータ連携と整合性
・グローバル対応力の強さ

機能の幅広さと柔軟性

SAPは会計や人事といった一般的な業務だけでなく、品質管理・プロジェクト管理・保全管理など、企業のあらゆる業務をカバーする豊富なモジュールを持っています。そのため、企業の成長や事業拡大に伴い、後から必要な機能を追加することが可能です。

リアルタイムなデータ連携と整合性

他のERP製品では、部門間でバッチ処理が行われ、リアルタイム性が劣ることもありますが、SAPはすべてのデータが即時に統合データベースに反映されます。これにより、経営層はいつでも最新のデータに基づいた判断が可能です。

グローバル対応力の強さ

多言語・多通貨対応はもちろん、各国の税制や会計基準への準拠も標準機能で実現されています。世界中でビジネスを展開する企業にとっては、各拠点を同じERP基盤で統一できることが、大きなメリットとなるでしょう。

SAP社製ERPの種類

ここでは、代表的な以下の3つについて紹介します。

・SAP S/4HANA
・SAP Business One
・SAP Business ByDesign

それぞれの特徴を理解して、導入検討に役立ててください。

SAP S/4HANA

SAP S/4HANAは、SAPの次世代ERPであり、大企業向けに設計されたフラッグシップ製品です。最大の特徴は、高速なインメモリデータベース「SAP HANA」を基盤としており、従来のERPと比べて圧倒的な処理スピードを誇る点です。

オンプレミス型・クラウド型の両方に対応しており、企業のIT戦略やインフラ環境に応じて柔軟に導入形態を選択できます。とくにグローバルに展開する大企業では、多言語・多通貨・各国税制対応といった要件を標準で満たしている点が高く評価されています。

一方で、機能が非常に豊富であるがゆえに、導入・運用の難易度が高く、社内に一定のITスキルやリソースが求められる点には注意が必要です。プロジェクト期間やコストも大規模になりやすいため、外部の支援パートナーとの連携が重要になります。

SAP Business One

SAP Business Oneは、中小企業向けに開発されたERPソリューションで、会計・販売・購買・在庫・製造・CRMなどの業務機能を標準搭載しています。複雑な業務要件を持たない企業では扱いやすく、スピーディな導入が可能です。

最大の魅力は、シンプルな構成と直感的な操作性により、業務担当者がすぐに使いこなせる点にあります。オンプレミスとクラウドのいずれにも対応しており、自社の環境や予算に応じた柔軟な運用が可能です。

導入コストが抑えられるうえ、カスタマイズ性もある程度確保されているため、中小企業でも業務効率化とデジタル化を一気に進められるツールとして注目されています。また、国内外の拠点ごとに段階的な導入も可能であり、将来的に事業拡大を見据えた設計も行いやすいのが特徴です。

SAP Business ByDesign

SAP Business ByDesignは、主に中堅企業やグループ会社向けに提供されるSaaS型(クラウド専用)のERPソリューションです。業務に必要な機能をすべてクラウド上で提供し、初期投資を抑えつつもスピーディな導入とスケーラブルな拡張が実現できます。

会計・販売・購買・在庫・プロジェクト管理・CRMなどが標準で搭載されており、複数拠点・部門を跨ぐ業務連携にも強みを持っています。また、ユーザーインターフェースは分かりやすく、IT部門の専任担当が少ない企業でも運用しやすい設計です。

とくに、海外拠点を持つ中堅企業や、親会社とは別でITインフラを整えたいグループ会社などに適しており、導入・保守の手間を最小限に抑えながら、一定レベルの機能性と柔軟性を確保したい企業にフィットします。

SAPを構成するモジュール

SAPは、企業の多様な業務プロセスを柔軟に支えるために、「モジュール」と呼ばれる機能単位で構成されています。必要なモジュールだけを導入できるため、自社の業務範囲や成長フェーズに応じて段階的にシステムを構築することも可能です。以下では、SAPの主要な3つのモジュール群とその他のモジュールについて詳しく紹介します。

・ロジスティクスモジュール
・財務会計モジュール
・人事モジュール

各モジュールの役割をチェックしておきましょう。

ロジスティクスモジュール

ロジスティクスモジュールは、SAPの中でも最も利用されている分野の1つです。購買・生産・販売・在庫管理といった物の流れに関する業務を統合管理することで、サプライチェーン全体の可視化と最適化を支援します。

主なモジュールには以下のようなものがあります。

モジュール 役割
MM(Materials Management:資材管理) 資材の調達から在庫管理、請求処理までを統合管理する
SD(Sales and Distribution:販売管理) 受注・出荷・請求・入金処理など販売活動全体を管理する
PP(Production Planning:生産計画管理) 生産計画の立案・作業指示の発行・実績管理までを支援し、製造現場との連携を強化する
EWM(Extended Warehouse Management:倉庫管理) ピッキング・入出庫管理・ロケーション管理などの倉庫作業を最適化する

これらのモジュールは連動して動作します。たとえば、MMでの仕入れ情報が自動的に会計側のFIに反映されるといったシームレスなデータ連携が可能です。

財務会計モジュール

SAPの財務モジュールは、企業全体の会計情報を一元管理し、日々の仕訳から決算処理、予実管理までをリアルタイムに実行できます。財務部門だけでなく、経営層の迅速な意思決定を支える情報基盤としても重要です。

代表的なモジュールには以下のようなものがあります。

モジュール 役割
FI(Financial Accounting:財務会計) 総勘定元帳・買掛金/売掛金管理・固定資産管理・決算処理など、会計業務全般をフォローする
CO(Controlling:管理会計) 原価計算や部門別損益の把握、プロジェクト別収支管理などの分析を行う
FSCM(Financial Supply Chain Management:財務サプライチェーン管理) 財務プロセス(債権債務・与信・資金管理など)の最適化を行う

FIとCOは密接に連携しており、たとえば仕訳データをもとに部門別の収益性を即座に可視化することが可能です。さらに、監査や税務対応のためのログや証跡管理も標準で備わっており、内部統制の強化にも寄与します。

人事モジュール

人事領域をカバーする人事モジュールは、従業員の入社から退職までのライフサイクルを一元管理するためのモジュール群です。従来の人事管理に加え、近年ではタレントマネジメントの領域でも活用が広がっています。

主なモジュールには以下があります。

モジュール 役割
PA(Personnel Administration:人事管理) 個人情報管理・雇用契約・組織異動・勤怠記録など、従業員情報を管理する
OM(Organizational Management:組織管理) 部署・職位・上司部下関係など組織構造の定義と管理を行う
PY(Payroll:給与計算) 給与計算・社会保険料の控除・賞与支給・源泉徴収票の発行などを自動化する
TM(Time Management:勤怠管理) 出退勤管理・休暇申請・シフト勤務管理など、勤務時間に関する管理をサポートする

さらに、タレントマネジメント機能では、従業員のスキル評価、研修履歴、昇進候補者の可視化なども可能で、人材の戦略的活用を促進します。

その他のモジュール

SAPには上記の主要領域以外にも、さまざまな業務をカバーするモジュールが多数用意されています。企業の業種や業態に応じて、必要なモジュールの追加導入が可能です。たとえば、以下のようなモジュールが挙げられます。

モジュール 役割
QM(Quality Management) 品質管理と品質保証に関するデータ管理を行う
PS(Project System) プロジェクトの計画、進捗管理、工数記録、原価管理などを一元化する
PM(Plant Maintenance) 設備の定期点検・修理履歴・予防保全計画の作成など、設備保全業務を支援する
CRM(Customer Relationship Management) 顧客管理・営業活動・キャンペーン管理・顧客対応履歴の記録などを統合管理する
BI(Business Intelligence) あらゆる業務データを集約・可視化し、経営分析やレポーティングを支援する

これらのモジュールを自由に組み合わせることで、企業の業務要件や業種特性に応じた最適なERP構成を実現可能です。

SAPとその他のERPの選び方

SAPとその他のERPのどちらを選ぶべきか、選定のポイントを解説します。企業規模や重視する点によって、適したソリューションを採用しましょう。

グローバル企業にはSAPのERPがおすすめ

多国籍展開している大企業や、海外子会社・現地法人を持つ企業には、SAPのERPが最適です。SAPは多言語・多通貨対応に加え、各国の税制・会計基準・商習慣への準拠が標準機能として備わっており、国や地域をまたぐ業務でも統一的に運用できます。

さらに、グローバルでの導入実績も豊富であり、世界中のSAPパートナーによる支援体制が整っている点もSAPの魅力です。各拠点のデータを本社でリアルタイムに集約・分析できるため、グループ全体での戦略立案やリスク管理も効率的に行えます。

中小企業には他社のERPが導入しやすい

中小企業やスタートアップ企業にとっては、導入や運用の手軽さが重要なポイントです。SAPは高機能で拡張性に優れる一方、導入までのプロジェクト期間が長く、初期投資が大きくなる傾向があります。そのため、スモールスタートで始めたい企業には、他社のERP製品の方が適している場合もあるでしょう。

ただし、SAPにも中小企業向け製品「SAP Business One」やクラウド型の「SAP Business ByDesign」があるため、将来的な成長を見越して段階的に導入する構成も検討の余地があります。

導入コスト重視なら他社のERPがおすすめ

導入にかかるコストを重視する場合、他社製のERPの方が適しているケースが多くあります。SAPはその豊富な機能性と柔軟性ゆえに、要件定義・設計・開発・教育・保守といった全工程でコストが発生しやすく、プロジェクト規模が大きくなりがちです。

ただし、安価なERP製品にはカスタマイズ性や拡張性が制限されているものもあります。自社の将来の事業拡大に合わせて、段階的に導入する方法も検討できます。

機能性を重視するならSAPのERPがおすすめ

「現場業務を細かく自動化したい」「部門をまたぐ複雑な業務フローに対応したい」という場合は、機能性に優れるSAPがおすすめです。SAPは多数の業務領域に対応したモジュールを標準で備えており、追加開発なしでも幅広い業務を網羅できます。

SAPと他社のERPの導入事例

SAPと他社のERPの導入事例を紹介します。

SAPの導入事例

ある大手製造業では、国内外に拠点を持つ中で、各国の会計基準や業務ルールにバラつきがあり、経営の可視化が困難になっていました。そこでSAP S/4HANAを導入した結果、すべての拠点で統一された基幹業務プロセスを構築し、データのリアルタイム集約と業務標準化を実現しました。これにより、経営判断のスピードと正確性が大幅に向上した事例です。

ERPの導入事例

中堅の食品卸企業では、別々のシステムで在庫・請求・売上を管理しており、ヒューマンエラーや集計のタイムラグが課題でした。国産のクラウドERPを導入したことで、販売・在庫・会計のデータがリアルタイムで連携され、属人的な業務が解消しました。1か月以上かかっていた月次決算が数日で完了するなど、業務の生産性が大幅に改善された事例です。

SAPや他社のERPを導入する際の注意点

SAPや他社のERPを導入する際の注意点として、以下の3点を紹介します。

・業務に必要な機能が備わったものを選ぶ
・信頼性の高いものを選ぶ
・保守・サポート体制が整ったものを選ぶ

それぞれ詳しくチェックし、自社での導入検討時の参考としてください。

業務に必要な機能が備わったものを選ぶ

ERPは多機能な反面、すべての製品が自社業務に合っているとは限りません。とくに業種特有の業務や特殊なフローがある場合は、標準機能で対応できるか事前にしっかり確認する必要があります。カスタマイズありきで導入を進めると、費用や運用負荷が膨らむ恐れがあるため注意が必要です。

信頼性の高いものを選ぶ

ERPは長期運用が前提の基幹システムであるため、ベンダーの信頼性が重要です。導入実績やサポート体制、バージョンアップの頻度、セキュリティ対応などを総合的に評価し、自社の将来性に合った製品・ベンダーを選びましょう。

保守・サポート体制が整ったものを選ぶ

ERP導入後は、日常的なトラブル対応や法改正への対応、操作方法の問い合わせなど、継続的なサポートが不可欠です。保守契約の内容やサポート範囲を事前に確認し、ベンダー側がどこまで責任を持って対応してくれるかを把握しておきましょう。

まとめ

本記事では、SAPと他社のERPの違いについて解説しました。SAPはERPの1つであり、高い機能性や信頼性が特徴です。一方、導入・運用に高いコストがかかるため、企業の規模を重視するポイントによっては、他社ERPの方が適しているケースもあります。

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