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「Society 5.0(ソサエティ5.0)」――あまり耳慣れない言葉ですが、平成28年1月22日に閣議決定された第5期基本計画(平成28~32年度)に使われている新しい経済社会の概念です。
ドイツ政府が推進する「インダストリー4.0」、アメリカのゼネラル・エレクトリック社が考案した「インダストリアルインターネット」、中国政府の発表した「中国製造2025」と同様の取り組みのように聞こえますが、「ソサエティ5.0」がこれらと大きく異なるのは、産業における生産性向上にとどまらず、社会全体を対象としている点です。
政府はこのソサエティ5.0を実現するために、科学技術基本法に基づいて2013年から毎年「科学技術イノベーション総合戦略」を策定しています。
今回は、ソサエティ5.0の概要をご紹介します。
ソサエティ5.0について、もう少し詳しく見ていきましょう。
内閣府の資料「Society 5.0 実現に向けて」 によれば、ソサエティ5.0は、「狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5番目の社会であり、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることにより、地域、年齢、性別、言語等による格差なく、多様なニーズ、潜在的なニーズにきめ細かに対応したモノやサービスを提供することで経済的発展と社会的課題の解決を両立し、人々が快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる、人間中心の社会」と定義されています。
内閣府はこれが実現された新しい社会を「超スマート社会」と名づけています。超スマート社会とは、「スマートモビリティ、スマートインフラ、スマートものづくり、スマート地域ケア、スマートグリッド」の5つの要素から成り、「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」です。
端的に表せば、最新のICTをフル活用して経済の発達と社会問題の解決を実現するための取り組みが「ソサエティ5.0」だといえます。
前出の「Society 5.0 実現に向けて」によると、ソサエティ5.0の実現のためには、次の3つの実現が必要だとしています。
1.「高度道路交通システム」「エネルギーバリューチェーンの最適化」「新たなものづくりシステム」の3つをコアシステムとする11のシステムを連携させて新しい価値(サービス)を創出すること
2.新しい価値(サービス)の基となるデータベースの整備
3.基盤技術(AI、ネットワーク技術、ビッグデータ解析技術等)の強化
また、経済産業省は、ソサエティ5.0実現の最大のカギは、「IoT」「ビッグデータ」「人工知能」「ロボット」といった第4次革命技術の社会実装であるとしています。
経済産業省は、ソサエティ5.0から派生させた概念として「Connected Industries(コネクテッド・インダストリーズ)」を提唱しています。そして、コネクテッド・インダストリーズ実現のための5つの重点取組分野として、「自動走行・モビリティサービス」「バイオ・素材」「ものづくり・ロボティクス」「プラント・インフラ保安」「スマートライフ」を掲げています。
これらは、 デジタルトランスフォーメーション(DX) で取り上げられる技術とほぼ共通しており、ソサエティ5.0は、いわば国家的なデジタルトランスフォーメーションなのだといえるかもしれません。
ソサエティ5.0で直接的にかかわりがあるのは、こういったICT技術を持つ企業ですが、物流や旅客、製造業といった社会インフラを支える業界、ヘルスケアや教育など社会的影響力の大きい業界を中心に、あらゆる業界において最新技術を取り入れた新しい製品・サービスの創出によってソサエティ5.0に貢献できる可能性が広がっています。
ソサエティ5.0で真に人々が豊かに生きられる社会を実現するためには、省庁や業界を超えた連携が必要になってきます。そのため、先ほど挙げたような業界に限らず、すべての業界にソサエティ5.0に取り組む意義があり、ビジネスチャンスの糸口となり得ます。
各企業がこれまでに培ってきたノウハウとICT最新技術を組み合わせることで、解決できそうな社会の課題(ソーシャル・イシュー)に取り組むことが、社会貢献のみならず利益の拡大というメリットまでもたらすのです。
など
ここに挙げたものは、あくまでも一例です。未知の領域であり、アイデアと技術の組み合わせ次第でいかようにも幅が広がっていくという点はデジタルトランスフォーメーションと通じるものがあります。
「IoT」や「ビッグデータ」「人工知能」「ロボット」などの技術が実装され、私たちの生活やビジネスのなかで自然と使われるようになる日はもうすぐそこまで来ているようです。ソサエティ5.0がつくる社会で、私たちがどのように生活したり働いたりするのか思いを巡らせてみることも大切かもしれません。