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これからのアクセシビリティ ~ネットとリアル~

これからのアクセシビリティ ~ネットとリアル~

2016年に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」を受け、行政や事業者には、事業所環境や雇用をはじめ、製品・サービスにおいても障がい者に対する配慮が求められるようになりました。

Webサイトも例外ではなく、アクセシビリティが求められています。ただ、「アクセシビリティ」はハンディキャップのある人たちへの対応ではなく、あらゆる年齢やコンディションの人たちにとっての利用しやすさである点には、注意が必要です。

本コラムでは、アクセシビリティとは何かを解説し、日本での取り組みをご紹介します。

アクセシビリティとは

アクセシビリティ(accessibility)とは、アクセスのしやすさ、つまり「近づきやすさ」を意味する言葉です。

リアルの世界では、建物や場所など、ある地点へ到達するまでの交通の便や、製品・サービスの利用のしやすさを意味します。

一方、ネットの世界では、求める情報への到達のしやすさや、Webサービスの利用のしやすさを意味します。使いやすさを表す「ユーザビリティ※」に近い意味で使われますが、実際にはユーザビリティを内包する概念です。

いずれの場合も、障がい者や高齢者を含む、広範な人にとっての「利用しやすさ」という意味を持ちます。

※ユーザビリティ…「ISO 9241-1」では、「ある製品が、特定の利用者によって、特定された利用の状況下で、指定された目的を達成するために用いられる際の、有効さ、効率及び利用者の満足度」と定義されています。

 

Webアクセシビリティとは

アクセシビリティのうち、ネットの世界でのアクセシビリティを「Webアクセシビリティ(ウェブアクセシビリティ)」といいます。

Webアクセシビリティにおいては、「障がい者・高齢者・健常者」といった利用者の差だけでなく、端末やブラウザ、特定のソフトウェアのインストール有無といったアクセス元の環境の差も含めた「利用しやすさ」が求められます。

国際規格

Webアクセシビリティには、国際規格として「WCAG」があります。

「WCAG 2.0」とは、「WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)2.0」の略で、HTMLやCSS、JavaScriptといったWeb技術の仕様・指針といったものを標準化するための国際的なルールを定めている非営利団体「W3C(World Wide Web Consortium)」が2008年に勧告として発表したものです。

2012年には、「WCAG 2.0」がそのまま、国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)の技術標準の「ISO/IEC 40500:2012」として承認され、2018年6月に「WCAG 2.1」が勧告されています。

「WCAG 2.1」ではウェブコンテンツをより利用しやすく広範囲に推奨事項を網羅しています。「WCAG 2.1」のガイドラインに従うことによって視覚障害、聴覚障害、運動制限、学習障害及び認知限界など、様々な障害のある人に対してコンテンツを提供することができるようになりました。

対象となるWebコンテンツ

Webアクセシビリティの対象となるのは、Web上で提供されるあらゆるコンテンツです。
たとえば、以下のようなものです。

・Webサイト(テキスト、画像、音声、映像など)
・Webアプリケーション
・Webシステム
・記録媒体(CD-ROM、DVD-ROMなど)を介して配布されるテキスト、画像、音声、映像など

 

Webアクセシビリティの誤解点

Webアクセシビリティというと、高齢者や障がいのあるユーザーを対象とした音声読み上げや文字拡大、文字色変更といった支援機能として語られることが多いですが、これらはWebアクセシビリティの一部に過ぎません。

ハンディのない人であっても、病気やケガをしていたり、普段使っている眼鏡やコンタクトレンズがない通常とは違うコンディションだったり、騒がしい人混みの中や直射日光の下での利用を余儀なくされたり、ネットワーク速度が遅かったりして外部環境が悪いケースなども想定してWebコンテンツが利用しやすい設計を行う必要があります。

また、見やすさや聞き取りやすさといった知覚的な認知のしやすさ(ヒューマンリーダビリティ)のみに対応するだけでも不十分です。というのも、多くのコンテンツはWebブラウザを主とするソフトウェアを介さないとユーザーが利用できるようにならないからです。もっといえば、パソコンやスマートフォン、タブレットといったハードウェアがなければ利用できません。
そこで、マシンが情報を解釈・変換しやすいかたち(マシンリーダビリティ)を意識する必要性も出てきます。

 

日本におけるアクセシビリティ

日本工業規格(JIS)のWebアクセシビリティ

Webアクセシビリティの国際規格については先ほどご紹介しましたが、日本では、日本工業規格(JIS)でアクセシビリティが規格されています。

初版は、2004年6月に「JIS X 8341-3:2004」として、国内外の既存のガイドラインに基づき、日本語に特有と思われる事項を追加して作成されました。
(※JIS X 8341の正式名称は、「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス」といい、Webアクセシビリティについては、「第3部:ウェブコンテンツ」に規格されています)

これが、2008年に前述の国際規格「WCAG 2.0」を内包するかたちで「JIS X 8341-3:2010」へと改正された後、「WCAG 2.0」が国際規格「ISO/IEC 40500:2012」として承認されたのを受けて2016年3月に「JIS X 8341-3:2016」へと改正されて現在に至ります。
「JIS X 8341-3:2016」は、61項目の達成基準適合レベルに応じて、A、AA、AAAの三段階に分類されます。

内閣府や成田国際空港株式会社などのWebサイトでは、この規格への対応を明記しています。

2020年東京オリンピック・パラリンピックでの取り組み

「JIS X 8341-3:2016」が公示された後、2016年4月には「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」が施行され、行政や事業者に対してサービスにおいても障がい者への差別をなくすことが求められるようになりました。

開幕まで半年を切った2020年東京オリンピック・パラリンピックにおいても、大会の基本コンセプトの一つである「多様性と調和」を体現すべく、大会組織委員会がリアルとネットの両面でアクセシビリティを推進しています。

リアルにおいては、「Tokyo 2020 アクセシビリティ・ガイドライン 」で、観客や選手といった大会関係者が各会場に移動する際の輸送手段や動線、表示サイン、ドアやエレベーター、エスカレーターの仕様、また宿泊施設などの仕様を規定し、障がい者への対応にまつわるトレーニングについての指針がまとめられています。

ネットにおいては、「ウェブアクセシビリティ方針」として「東京2020大会公式ウェブサイト」を対象に「JIS X 8341-3:2016」への対応を目標としてアクセシビリティ向上へ取り組むことを明言しています。

観戦のために来日する外国人旅行客の増加が見込まれるため、大会組織委員会が運営するWebサイト以外であっても、観光・宿泊などに関連するWebサイトではアクセシビリティ対応を行うべきでしょう。特に、日本は地震大国であり、近年は夏場に大雨・台風といった大規模災害が起きています。災害などの緊急時に備えてさまざまな人種、年齢、コンディションの人たちに必要な情報の整備とアクセシビリティ対応が求められます。

2025年大阪万博ではさらなるWebアクセシビリティの向上が見込まれる

東京オリンピック・パラリンピックから5年後には、大阪府大阪市の人工島「夢洲(ゆめしま)」で国際博覧会が開催予定となっています。

2025年大阪・関西万博では、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げているほか、「SDGsが達成される社会」「Society5.0の実現」の二つを目指すとしています。SDGsでもSociety5.0でも、特にアクセシビリティについて触れられているわけではありませんが、どちらも「すべての人」を対象として公平や平等、快適な暮らしの実現をうたっており、時代の流れからしてもさらなるWebアクセシビリティの向上が期待されます。

総務省では「公的機関に求められるホームページ等のアクセシビリティ対応」や「みんなの公共サイト 運用ガイドライン」を公表し、公的なWebサイトでのアクセシビリティ向上を推進しています。

また、Webアクセシビリティは未知のデバイスを含むさまざまな機器への対応も内包しており、5年後に登場するであろう新しいデバイスや既存ブラウザの新バージョンといったものへの対応も見込まれます。

 

まとめ

Webサイト構築の際は、つい目先のSEOやコンバージョンのための施策や、情報セキュリティ対策ばかりに着目しがちですが、ハンディキャップの有無に関わらずすべてのユーザーにとって利用しやすいWebサイトを設計することが求められる時代です。

米国ではすでにWebサイトにアクセスすることは基本的な人権の一つと捉えられており、公共サービス分野だけでなくエンターテインメント分野でもアクセシビリティに関する訴訟が起きています。

そして、Webアクセシビリティに取り組まないとSEOで不利になったり、機会損失にもつながるといわれています。
この機会に、自社サイトをアクセシビリティの観点から見直してみてはいかがでしょうか。

アイネスでは、Webアクセシビリティ対応のご支援を行っております。詳しい情報は、お気軽にお問い合わせください。

※ 本文に掲載されている会社名・団体名および製品名は各社または団体等の商標または登録商標です。
 

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