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コロナ禍における小売業の変化

コロナ禍における小売業の変化

新型コロナウイルスは、大勢の感染者を出すだけにとどまらず、私たちの生活様式や商習慣をも変化させました。日本でもワクチン接種が進んでいますが、新規感染者数が激減する様子は依然として見られず、現在の暮らしはしばらく続きそうです。

人との接触が避けられる中、特に新型コロナウイルスの影響を大きく受けている業界の一つが小売業です。おうち時間を充実させる商品などの売れ行きが好調といったプラス面はあるものの、実店舗の売上減少などマイナスの影響も受けており、対応を迫られています。

本コラムでは、新型コロナウイルスの影響で変化した小売業を取り巻く環境を整理し、デジタルを活用してシフトすべき新たな姿を探っていきます。

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小売業を取り巻く現状

まずは、2021年9月現在の小売業を取り巻く現状を確認していきましょう。

2020年度の小売業の販売額は4年ぶりに減少

経済産業省が2021年4月に発表した分析結果によれば、2020年度の小売業の販売額は、業種ごとに売上の前年度比は増減が異なりますが、小売業全体としては4年ぶりの減少となりました。

業種別に見ると、家電大型専門店が5.1%増、ドラッグストアが6.6%増、ホームセンターが6.8%増、百貨店が25.5%減、スーパーが3.4%増、コンビニエンスストアが4.4%減となっています。
※いずれも、全国の販売額。

新型コロナウイルス関連でのマイナス要因としては、外出自粛や出勤回避、インバウンド消費の減少など、プラス要因としては、巣籠り需要が考えられるといいます。

特に、ホームセンターは4年ぶりに増加に転じたものの、百貨店は緊急事態宣言下の休業や営業短縮、消費者の外出自粛、インバウンド消費の減少などで全国的に大幅減となったほか、コンビニエンスストアは1998年の調査開始以来、初めて減少に転じるなど、小売業を取り巻く厳しい現状が明らかになりました。

出典:「2020年小売業販売を振り返る(前編) 」「 2020年小売業販売を振り返る(後編)」経済産業省

小売業への政府の対応

政府によって緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令される中、小売業に対する休業や営業時間短縮の要請は、これまで百貨店などの大規模施設へのみ出されてきました。
ただ、生活必需品を提供するスーパーマーケットやドラッグストアは対象外となっています。
専門店などでは自主的に休業や時短営業を実施する店舗もありました。

一方で、政府は小売業に限らず、新型コロナウイルス関連で企業支援策も実施しています。
たとえば、経済産業省が経営相談窓口の開設や新型コロナウイルス特別貸付などの融資、給付金「月次支援金」の支給、厚生労働省の「雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)」などがあります。また、すでに終了していますが、「Go To キャンペーン」の一環で、経済産業省が「Go To 商店街事業」を実施していました。

コロナ後の消費者動向は小売業の追い風に

コロナ前後で消費者の財布の紐はどう変化したのでしょうか?
消費者庁が発表した令和3年版消費者白書の特集「「新しい生活様式」における消費行動」によれば、2020年の家計の支出は、2019年と比較して「サービス」が減少した一方で「財(商品)」は増加しており、消費者動向においてはコロナ禍が小売業にとってプラスに働いていることがわかります。

ただ、「食品(2.8%増)」や「家具・家事用品(0.5%増)」が増えている一方で、「被服及び履物」は0.6%減少しており、商品分野によって明暗が分かれています。「外出自粛」や「巣籠り」といったキーワードと、自社の扱う商材をどのように絡められるかが鍵になりそうです。

コロナ禍で生まれた小売業の変化

新型コロナウイルスの感染拡大前後で、小売業を取り巻く現状は、これまでと同じ店舗運営方法では、思うように売上が上がらない状況になってきています。

では、これからの小売業のあり方とはどのようなものでしょうか?
その答えの一つが「デジタルシフト」です。

小売業のデジタルシフト

デジタルシフトとは、企業などの組織における既存のアナログな経営や業務などをデジタル化することです。小売業においては、新型コロナウイルスの感染拡大防止という課題をデジタルシフトによって以下のように解決することができます。

具体的には、「リアル店舗からオンライン店舗への移行」「非接触な買物の促進」の2つを実現することが重要です。

リアル店舗からオンライン店舗への移行

リアル店舗においてはこれまで、コロナ対策として三密回避のために、チラシ配布の自粛や入場制限、出入り口に消毒用アルコールを設置したりレジブースに飛沫ガードを設置する、レジ待ちの列にソーシャルディスタンスを設定する、レジかごの消毒といった対策が実施されてきました。従業員に対しても毎日の検温を義務付けたり手指の消毒を徹底させ、また、来店客に対しては、マスクの着用や1人での来店、買い占めをしないなどの協力を求めてきたことでしょう。

ただ、こうした対策は、実際に来店してくれた顧客に対する感染予防としては有効ですが、感染を恐れて来店を避けている顧客の消費を促すことはできません。
売上を維持・向上させるためには、来店しなくても買い物ができるオンライン店舗を整備する必要があります。

そもそもオンライン店舗を設けていなかった企業ではオープンを急ぐべきですし、すでに開設・運営しているところでは、顧客に「リアル店舗での買い物よりもオンライン店舗の方が劣る」と感じさせないような顧客体験をオンライン店舗上で提供することに注力したいものです。

オンライン店舗での購入では、実物を手に取って確認することができないため、たとえば、生鮮食料品の場合は鮮度や大きさ、衣料品の場合はサイズが合うかといった点を不安に思う消費者は多いでしょう。ARなどの活用でこういった不安をいかに払拭できるかが肝になってきます。また、チャットボットなどを活用し、双方向性のコミュニケーションが取れるオンライン接客の質を向上することも大切です。

非接触な買い物の促進

オンライン店舗を充実させたとしても、引き続きリアル店舗も運営しながら両立させる企業が多いでしょう。リアル店舗では、これまでの感染対策以上に、非接触で購入できる体制作りが重要になってきます。

店舗への入り口と出口を完全に分けた導線づくりなど、物理的に非接触を実現することも重要ですが、加えてデジタル技術を活用した非接触な買い物の促進を行うことで、さらに感染リスクを低減することが可能です。

たとえば、予約来店の仕組みを整備することで、店内を混雑させず、来店客同士の接触を避けることができます。
また、現金の受け渡しをせず、非接触で支払いができるキャッシュレス決済を導入することで、来店客だけでなく、自社スタッフの感染リスクも減少させられます。

このように、デジタルシフトによって感染リスクを低減し、顧客に選ばれる店作りを行うことが、今後の生き残りにつながっていくでしょう。

欧米の小売業に学ぶデジタル活用

DX(デジタルトランスフォーメーション)など、デジタル活用が進む欧米では、小売業におけるデジタル活用と、それによる店舗のあり方も日本より一歩、先行しています。
欧米では、ロックダウンの実施など、日本よりも厳しい外出規制や営業規制などがかかったため、デジタル活用による感染リスクを低減した販売方法が早期に浸透しました。

買い物代行サービスとの連携

特に、Uber Eats(ウーバーイーツ)の買い物版ともいえる買い物代行サービスが社会インフラとなりつつあるようです。

たとえば、米国では、「Instacart(インスタカート)」という食品買い物代行サービスが急成長中です。競合に比べて利用料金が割高でありながら、店舗のバリエーションが豊富で欠品が少なく、小売店との連携でクーポンなどのお買い得情報をリアルタイムで買い物かごに反映させることで顧客の支持を得ています。

買い物代行サービスそのものは小売業ではありませんが、ウィルマートが買い物代行サービス企業を買収した例もありますし、密に連携することで顧客満足度の向上が期待できます。

店舗は商品受け取りのための場所に

オンライン店舗で商品を購入し、受け取りのためだけに店舗を訪れるというスタイルも欧米で増えてきています。受け取り専用の店舗を設けることで、店舗が混み合うことを避けられ、来店客もレジに並ぶ必要がなくなります。

さらに進んで、店舗では販売をせずに、試着のような購買のための体験の場や、イベントスペースとして運営する企業も現れています。たとえば、北欧家具のIKEA(イケア)はマンハッタンに間取りのコンサルティングを提供するためだけの店舗を出店しています。
コロナ禍が収束した後を見据えて、店舗の新たなかたちを模索することも必要かもしれません。

スタッフは接客に専念させて顧客満足度を向上

デジタルを、これまではショップスタッフの仕事だった品出しや清掃、レジ打ちに活用し、空いたスタッフの時間を接客に専念させることで顧客満足度の向上につなげる取り組みもあります。

さらに、オンライン店舗での注文履歴を含む過去の購買データを、顧客のプロフィール情報などとともに表示させられるような仕組みを併用することで、接客の質を向上できます。

まとめ

コロナ禍によって小売業を取り巻く状況も変化しました。そこには、マイナスの要素もあれば、プラスの要素もあります。また、コロナ禍とは関係のないところで、デジタル技術が進歩しています。うまく活用することで競争力をつけ、アフターコロナを生き抜きたいものです。

買い物の概念も変わりつつあり、コロナ禍を機に初めてオンライン店舗を利用したという消費者もいるでしょう。オンライン店舗や買い物代行サービスには一定の利便性がありますが、店舗に足を運ぶ楽しみが消えることは考えにくいです。顧客体験をキーに、サービスなどを含め、自社が何を提供できるかを念頭に、デジタルシフトを検討してみてはいかがでしょうか。

アイネスは、コンサルティングからデジタルシフトのご提案、データ分析サポートなど、小売業のビジネス課題解決をお手伝いしています。詳しくは、以下の【関連サービス】をご覧ください。

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