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自治体DXとは、自治体が最新のデジタルテクノロジーを活用して住民に提供するサービスや業務フローなどを変革させることです。
産業界から高まりを見せている日本のDX(Digital Transformation/デジタルトランスフォーメーション)ですが、その波は行政や自治体へも及び始めています。「ガブテック(GovTech)」という言葉も聞かれるようになり、行政手続きのオンライン化などを担う「デジタル庁」が、2021年9月1日に創設されました。
本コラムでは、自治体DXについて、推進のポイントと行政の取り組み事例を紹介いたします。
自治体DXとは、自治体が最新のデジタルテクノロジーを活用して住民に提供するサービスや業務フローなどを変革させることです。
そもそもDXとは、企業などが最新のデジタルテクノロジーを活用して戦略やプロダクト、業務フローなどを変革させることをいいます。この主体が企業から自治体になったと考えるとわかりやすいです。
ただ、企業がDXを行う目的が競合企業に対する競争力を高めるため、つまり自社の利益のためであるのに対し、自治体DXでは変革を行うのは住民のためであるという点が大きく異なります。
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自治体におけるDXを推進する理由の根本には、少子高齢化による人口減少があげられます。
人口減少により地方では過疎化が進んでいます。これが一定の域を超えると、ゴミの収集や上下水道のメンテナンスといった社会インフラや公共交通サービスを提供するためのコストがかかり過ぎてしまい、最終的に提供できないレベルに至ります。
実際に、国土交通省は居住区域と生活サービス施設を集中させる「コンパクト・プラス・ネットワーク」を推進しています。平たくいえば、意図的にほどよく過密なまちづくりを行うことで、都市の機能を存続させるということです。
しかし、実現に当たっては、すべての住民に対して強制的に移動させることができないなどの課題もあります。
また、総務省によれば、2020年4月1日の地方公務員数を1994年と比較すると、約52万人減少しているといいます。この要因は必ずしも人口減少だけではありませんが、将来的な人口減少による人手不足が懸念されています。
そこで、最新のデジタルテクノロジーを活用することでこうした課題を解決し、住民一人ひとりにきちんと行政サービスを届けられるように変革しようというのが自治体DXです。
総務省が2020年12月に発表した「自治体DX推進計画概要」によれば、「自治体DX推進計画の意義・目的」の3つのうちの1つ、「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」から目指すべきデジタル社会のビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」が示されています。
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自治体DXが抱える課題、自治体DXが進まない理由は主に次の4点です。
DXを推進するためには、デジタル技術に精通した人材が不可欠ですが、自治体職員の中にはこれらのスキルを持つ人が少ないのが現状です。
そもそも、職員の数自体が減少している現状があります。総務省の発表によれば、地方公務員数は平成6年をピークとして減少しており、令和4年4月1日現在の数値で、対平成6年比で約48万人減少となっているといいます(ただし、対前年比は、3,003人の増加)。
この背景には、団塊世代の職員の大量退職と採用抑制、市町村の合併などが挙げられるといいます。
しかし、高齢化に伴う社会保障分野や保健分野での行政ニーズが高まるなど、地方自治体に求められる役割が拡大している部分もあり、人手不足感が浮き彫りになっています。このため、通常業務だけでも手一杯になっており、住民に快適な行政サービスを提供するために、DXの取り組みが後回しにされがちです。
さらに、DX人材の採用・育成が進まないという側面もあります。一般的に、公務員試験は広範な知識を問うものであるため、デジタル技術に関する知識など、特定の専門知識を持つ人材の採用が難しいといえます。ただでさえ、DX人材はまだ希少な存在で、民間企業でさえ確保が追いつかないのが現状です。
かといって、既存の職員をDX人材へと育成しようとしても、人材育成のための予算や時間、ノウハウ、体制が不足しており実現が難しいのです。
DXには相応の予算が必要ですが、現状の仕組みを大きく変えるためには、ハードウェアやソフトウェアの導入などに多額の予算が必要です。
しかし、地方交付税の削減や人口減少による税収の減少などにより財政が圧迫されている自治体が少なくありません。総務省の調査でも「財源の確保」が最も多いDX推進の課題となっています。
自治体職員の変化に対する抵抗や、伝統的な働き方への固執も、DXの推進を妨げる大きな要因となっています。
現状維持バイアスとは、現状の状態を維持しようとする心理傾向のことです。自治体職員の中には、これまでのやり方に慣れ親しんでいるため、新しいことに取り組むのに抵抗感を持つ人が少なからず存在します。そのため、DXによる業務の効率化やサービスの向上を図る取り組みに、消極的になる可能性があります。
また、業務そのものも、長年にわたり構築された既存のシステムやプロセスに依存しているため、新しい技術への移行が困難となっています。
自治体DXを進めるためには、住民の理解と協力が不可欠です。
自治体DXは住民の生活に影響を及ぼします。このため、自治体DXに必要な予算を確保するためには、自治体のトップだけでなく、住民からの理解も得なければなりません。DXの推進によって生じる変化や享受できるメリットなどについて、理解してもらい、賛同してもらう必要があるのです。
しかし、一部の住民はデジタル技術に対する理解が不足していたり、新しい技術への抵抗感を持っていたりする場合があります。具体的には、自治体DXによって得られるメリットが具体的にイメージできていなかったり、デジタルデバイスの利用が難しく、ついていけないことを懸念していたりすることが想定されます。特に、高齢者などデジタルデバイスの利用頻度が低い層にとって、DX化によるサービスの変更や新たな手続き方法への適応が困難であると感じることがあるでしょう。
したがって、自治体がDXを進めるためには、住民がデジタルサービスを理解し、利用できるようにするための説明会やサポートが必要です。たとえば、DXの取り組みに関する説明会や、デジタルデバイスの使い方を教えるワークショップの開催、問い合わせに対するサポート体制の強化などが考えられます。
自治体がDXを推進する際のポイントとしては、次の3点が挙げられます。
DXを推進するに当たり、それぞれの自治体が抱えるさまざまな課題を洗い出し、それらに対して自治体として提供できる価値は何かを検討することが重要です。
具体的には、業務の必要性を確認したり、手続きの簡素化をはかるなど、価値提供のために必要な要素を洗い出していきましょう。
前項で、提供価値と必要な要素を明確にしたら、まずは、小さな規模からスタートすることをおすすめします。
実際に取り組みを行うことで、住民の反応や、新たな課題の抽出など、得られるものがたくさんあるはずです。
小さな成果でも初期の段階で成功実績を積み重ねるクイックウィンを重視し、手ごたえがあれば拡張する方向で進めることで、DXの実現につなげていきましょう。
DXを実施する中で、生成されたデータをしっかり蓄積していきましょう。この時、注意したい点は、利用者である住民や職員に極力負担をかけない方法で蓄積するということです。
蓄積したデータは、仮説を立てた上で分析に活用します。分析結果は、取り組みにフィードバックして改善を加え、より良い価値提供へとつなげていきましょう。
総務省が「自治体DX推進計画概要」で提唱している、自治体が取り組むべき重点事項は次の6点です。
従来、自治体の情報システム構築は各自治体に任されており、ベンダーもシステムもさまざまで仕様も標準化されていませんでした。
これを、2025年度中に基幹系17業務システムについて国の策定する標準仕様に準拠したシステムへ移行し、「Gov-Cloud(仮称)」を構築・活用することを目指して標準化・共通化しようというものです。
政府が、各種証明書の取得や電子申請を簡単に行えるようになるとして普及を進めているマイナンバーカード。キャッシュレス決済で最大5,000円分が上乗せされるマイナポイントなどの推進施策を進めているものの、2021年5月5日時点で交付率は30%と低調です。
政府はこれを2022年度末までに、ほとんどの住民がマイナンバーカードを保有していることを目指して、交付円滑化計画を策定し、申請を促進するとともに交付体制のさらなる充実をはかっています。
政府は、今後マイナンバーカードを活用した電子申請が想定される手続きについて、2022年度末を目指してマイナポータルからのオンライン手続きの実現を目指しています。
これに関して、国と自治体とで連携を取るため、自治体との接続機能の開発などを進めています。
「自治体の情報システムの標準化・共通化」や「自治体の行政手続のオンライン化」に伴い、各自治体で業務見直しなどを行い、総務省が作成する「AI・RPA導入ガイドブック」を参考にAIやRPAの導入・活用を推進するというものです。
新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、民間企業で一気に進んだテレワークですが、自治体の業務においてもテレワークを促進するために、「自治体の情報システムの標準化・共通化」や「自治体の行政手続のオンライン化」に伴って対象業務を拡大し、総務省は「テレワーク導入円滑化のためのセキュリティポリシーガイドライン」の改定や、テレワーク環境、テレワーク導入事例を提供しています。
前項の「テレワーク導入円滑化のためのセキュリティポリシーガイドライン」の改定に伴って、各自治体においても適切にセキュリティポリシーの見直しを行い、情報セキュリティ対策は、さらなる強化が求められています。
自治体DXを推進するには、具体的に次の4つのステップを踏むことをおすすめします。
まずは、自治体内でDXの重要性や効果を広く周知し、職員の理解と関心を高めます。DXの研修や勉強会を開催し、自治体DXの事例を共有するなどの方法が有効でしょう。
次に、現状分析を行い自治体としてDXを推進する方向性を定めます。たとえば、市民サービスの改善、業務効率化、コスト削減といったことです。自治体が抱える課題と、現在のITシステムや業務プロセスの評価という両面からDXの可能性を探ります。
さらに、DXの具体的な目標とスケジュールを明確に設定します。
DXを推進するためには、強いリーダーシップが必要です。まずは、自治体のトップがDXの重要性を理解し、積極的に推進することが求められます。その上で、トップダウンで推進することで、職員の意識改革を図りやすく、DXを推進するための土壌を整えることができます。
さらに、DXを専門的に推進するためのチームを設置します。このチームは、ITスキルだけでなく、業務知識やプロジェクト管理能力を持つ人材で構成しましょう。
推進チームで具体的な戦略を立てます。この戦略に基づき、新しいシステムやサービスを開発・導入していきます。
この時、専門的な知識や技術を持つ外部パートナーと協力することで、DXの進行をスムーズに進めることができるでしょう。
以上のステップは一例であり、具体的な取り組みは自治体の状況や目標により異なります。重要なのは、市民の利便性と自治体の効率性を向上させることを常に念頭に置くことです。
また、DXは単なる技術の導入ではなく、組織全体の文化やマインドセットの変革を伴うべきです。
最後に、実際にDXに取り組んでいる自治体DXの事例をテクノロジー別に5つご紹介いたします。
事例と合わせて自治体職員様限定「アイネス自治体DXサービス資料」もご覧ください。
AIチャットボットとは、文字情報や音声を介して人と対話することを目的に作られたプログラムであるチャットボットに、AIが搭載されたものです。AI(Artificial Intelligence)は「人工知能」と訳され、従来のコンピュータが行ってきたような単純計算などではなく、人間が行うような言語の理解や推論、学習、問題解決といった創造的・知的行動を実行できる技術を指します。
AIチャットボットは、AI非搭載のチャットボットでは対応できないような質問者の言葉使いの揺れにも対応でき、会話を重ねることでより回答の精度が上がるといったメリットがあります。
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【レポート】2040時代のスマート自治体に向けて取り組むべきこと
電子申請とは、従来、書類で行ってきた申請や届出といった行政手続きを、パソコンやタブレット、スマートフォンなどからインターネット経由で行う申請方法のことです。
住民にとっては、申請のためにわざわざ役所へ出向かなくても済むようになったり、開庁時間外の夜間などでも申請が行えたりと、利便性が向上します。
電子申請の事例としてご紹介するのは、埼玉県の「彩の国 電子申請サービス」です。同サービスはさかのぼること18年も前の2003年4月にスタートしています。当初は、セミナー参加申請や学習ルーム利用申請などの6つのサービスのみが対象でしたが、2021年8月現在では、埼玉県宛ての申請のほか、埼玉県警や各市町村宛ての申請など、併せて900件以上の手続きが電子申請で行えるように整備されています。
2021年4月からは、従来のようなID/パスワードのアカウントを作成するのではなく、メールアドレスを登録すればサービスが利用できるようになるなど、常に住民視点での改善が行われている様子がうかがえます。
地域通貨とは、一定の地域やコミュニティ内でのみ利用できる、法定通貨と同等の価値を持つ貨幣(※貨幣として発行されるもの)のことで、コミュニティ・マネーともよばれます。海外でも盛んに活用されており、代表的なものにスイスの「WIR(ヴィア)」などがあります。
地域通貨は、地域外へ持ち出されることがなく、金融機関へ預けられることもありません。このため、地域内での支払いに使われる可能性が高く、地域の経済活性化が期待できます。また、必ずしも一般的な購買だけでなく、ちょっとした助け合いの対価としても使われるため、地域コミュニティの活性化も見込めます。
日本でも2000年代前半に地域通貨ブームが起き、全国に100以上の地域通貨が存在します。地域通貨の事例としてご紹介するのは、埼玉県深谷市の発行するデジタル地域通貨「negi(ネギー)」です。negiは、少子高齢化による人口減から懸念される地域経済の衰退を食い止める手段の一つとして導入されました。1negiは1円相当として市内の約600店舗で、「chiica(チーカ)」というスマホアプリ経由、またはQRコード付きのカードで決済に利用できます。
RPAとは、Robotic Process Automationの頭文字を取ったもので、ロボットを業務に活用して自動化・効率化しようというものです。従来は人間がこなしていた定型業務などをRPA化することで、24時間365日、ミスなくスピーディに代行してくれます。
自治体でRPAを導入することで、人手不足の解消が期待でき、総務省も2018年から自治体へのRPA導入支援を予算化し、推進しています。
RPAの事例としてご紹介するのは、千葉県市川市のRPA導入による業務効率化です。多くの自治体では職員が膨大な業務を抱え、時間外勤務が常態化しがちですが、市川市でも同様の課題を抱えていました。児童手当年金などの情報照会業務を中心にRPA化を進め、年間の時間外勤務削減効果は約500時間にものぼると見込まれています。
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福岡市が管理するWebサイト「自治体オープンデータ」の定義によれば、オープンデータとは、「機械判読に適したデータ形式で、二次利用が可能な利用ルールで公開されたデータ」であり「人手を多くかけずにデータの二次利用を可能とするもの」だといいます。
これを自治体におけるオープンデータ活用の文脈で考えると、行政や自治体が保有する公共データなどが、誰でも二次利用できるものとして公開されることだといえます。
オープンデータ活用の事例としてご紹介するのは、横浜市金沢区の子育てポータルサイト「金沢区子育て支援拠点とことこ(旧:かなざわ育なび.net)」です。同サイトには、区の中では管轄が異なるが、子育て中の親が知りたい情報(保育園の空き状況、公園の情報、予防接種の予定など)が集約されており、子どもの生年月日や居住地の郵便番号を入力すると、関連度の高い情報が上位に表示されるパーソナライズ機能が備わっています。
少子高齢化が進み、人口減少が避けられないこれからの日本において、自治体のDXは不可欠なものとなるでしょう。
総務省の動向を注視しつつ、地域が抱える課題や住民とのコミュニケーションの取り方を第一に、必要なデジタルテクノロジーを見極めて、DXに取り組みましょう。
アイネスでは、これまでに培ってきた豊富な知識とコンサルティング力を組み合わせ、自治体DXの推進をサポートします。三菱総研グループとともにデジタル技術を活用して地域課題の解決に挑む『Region-Tech構想』の実現に向け、地方自治体に向けたソリューションの開発、提供を行っております。
自治体職員様限定、アイネス自治体DXサービス資料をご用意しています。
詳しくは、「自治体DX」のページをご覧ください。
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